「今年も経理は売り手市場のはず」——正直、去年まではそう思っていました。ただ、年明けにnoteで公開された、上場企業で採用担当も務める経理次長・ユーキエンジンさんの2026年の経理転職市場予測を読んで、その前提を一度疑ってみる必要があると感じました。
結論を先に言うと、「経理というだけで内定が取れる」ボーナスタイムは、2026年ではっきり終わります。ただし「経理に需要がなくなる」わけでもありません。狙う業界とタイミングさえ外さなければ、むしろ去年より良い条件で転職できる人も出てくるはずです。今日は、その見極め方を整理してお伝えします。
生成AIで「採用見送り」が増えている本当の理由
ここ数年、経理の転職市場は「人手が足りないから、とりあえず採用しよう」という空気に支えられてきました。ところが2026年に入り、その前提そのものが崩れ始めています。
理由はシンプルで、生成AIやAIエージェントが「定型業務をこなす担当者」の代わりを、実際に務め始めたからです。ユーキエンジンさんの記事でも、「この業務、CopilotやAIエージェントで回せるよね?人の採用は一旦見送ろう」という声が採用の現場で実際に上がっていると紹介されていました。以前このブログでも「経理はAIに奪われる仕事なのか」という切り口で取り上げましたが、あの記事を書いたときよりも、この空気は確実に濃くなっています。
特に影響を受けやすいのは、次のような「作業」中心の求人です。
- 仕訳の起票や請求書データ入力など、フォーマットが決まった定型入力業務
- Excelの関数・ピボットテーブルだけで完結する集計業務
- 月次の定型レポート作成や、経費精算のチェックだけで終わる業務
「クラウド会計ソフトが使えます」「Excelで集計できます」というアピールは、もう面接官の心に響きません。「それ、AIに指示すれば終わりますよね」と思われてしまうからです。この変化に気づかないまま、以前と同じ職務経歴書で応募し続けている人ほど、書類選考の段階で足踏みしているのが2026年の現実です。
ここで大事なのは、「経理という仕事そのもの」がなくなるわけではないという点です。なくなっていくのは、あくまで「AIに指示すれば終わる作業」を担うポジションの求人です。この違いを曖昧にしたまま「経理はもうダメだ」と結論づけるのは、少し早計だと思います。
それでも需要が伸びている「狙い目」業界・タイミング(IPO準備企業など)
採用を絞る企業が増える一方で、逆に経理人材を積極的に取りに来ている業界もあります。ユーキエンジンさんが挙げていた「狙い目」を、僕なりの解説を添えて整理してみます。
1. 建設・物流・不動産などレガシー産業のDX枠
いわゆる「2024年問題」を経て、紙文化・ハンコ文化からの脱却を迫られている業界です。社内にITに強く会計知識もある人材がほとんどいないため、IT業界出身の経理や、業務改善経験のある経理が入ると「救世主」扱いされやすい状況が続いています。DX推進手当込みで年収800万〜1,000万クラスのオファーが出やすいのも特徴です。
2. グローバル・ニッチトップメーカー
特定分野で世界シェアを持つ「ニッチトップ企業」は業績が堅調で、海外展開の再加速に伴い採用意欲も旺盛です。連結決算の経験と、抵抗のないレベルの英語力があれば、総合商社ほどの激務にならずに高年収を狙える「隠れ優良企業」が集中しているゾーンです。
3. IPO「再」挑戦中のベンチャー企業
市況の回復に伴い、一度上場を延期・断念した有力ベンチャーが、2026〜2027年の上場を目指して動き出しています。求められているのは勢いだけの経理ではなく、証券会社の厳しい審査に耐えられるガバナンスを構築できる経理です。上場準備企業の経理は激務になりやすい面もあるので、IPO経理は激務でしんどい?上場準備企業に転職する人が知っておくべき注意点で実態を確認したうえで判断することをおすすめします。
タイミングにも触れておきます。4月入社を狙う求人が最も多く出回るのが1〜3月で、未経験からの挑戦やポテンシャル採用を狙うならこの時期が動きやすくなります。一方、3月決算・株主総会が一段落した5〜6月は、課長・部長クラスの後任募集が市場にポロっと出てくる「穴場シーズン」です。ハイクラス求人を狙うなら、こちらのタイミングにアンテナを張っておくとよいでしょう。詳しいタイミングの見極め方は経理の転職時期でベストタイミングはいつ?求人が多くなるのは何月?でも整理しています。
AIに代替されない経理パーソンの条件
では、どうすれば「AIに代替される側」ではなく「狙われる側」に回れるのか。ここが一番聞かれるポイントです。
僕が現場で見てきた限り、評価が上がっている人材には共通点があります。それは、AIやシステムに「使われる側(入力担当)」ではなく、「使いこなして業務全体を設計できる側」に回っていることです。具体的には、次のようなことを語れるかどうかが分かれ目になります。
- 生成AIを業務フローに組み込み、月間の作業時間を具体的に何時間削減したという実績
- インボイス制度や電子帳簿保存法対応で複雑化した業務フローを、SaaSを連携させて再設計した経験
- 「入力担当」ではなく「業務設計・チェック担当」としての動き方
余談ですが、2026年10月にはインボイス制度の経過措置がさらに変わり、経理実務の負担が一段と増える見込みです。こうした制度変更にキャッチアップし、自分の言葉で説明できることも、地味に強い差別化材料になります。詳しくは2026年10月、インボイス経過措置変更で経理実務は何が変わる?で整理しているので、あわせて確認しておいてください。
このスキルセットを持っている人材とそうでない人材とでは、提示年収で100万円以上の差がつき始めているというのが、採用現場の肌感覚です。「AIが使えるかどうか」ではなく「AIに何をさせて、自分は何をするか」を語れるかどうか。ここを一度、棚卸ししてみてください。
未経験・異業種から経理を目指す人へのロードマップ
ここまで読んで、「じゃあ未経験から今から経理を目指すのは無謀なのか」と不安になった方もいるかもしれません。結論から言うと、無謀ではありません。むしろ、AI前提の働き方しか知らない状態からスタートできる分、我流のExcel芸を後から学び直す必要がない、というメリットすらあります。
未経験から目指す場合のロードマップは、次の3段階で考えるとシンプルです。
- 土台づくり(〜3ヶ月):簿記の学習と並行して、生成AIツールに日常的に触れておく。「AIに指示を出す」感覚を先に身につけておくと、入社後の伸びが早くなります。
- 応募・面接準備(1〜3月が本命):4月入社求人が最も多く出るこの時期に照準を合わせ、職務経歴書には「AIやシステムをどう使うか」の視点を必ず盛り込む。経理未経験から正社員へ|最速ルート3つを徹底比較で自分に合うルートを確認しておくと近道になります。
- 入社後の立ち回り:入社してすぐは定型業務からのスタートで問題ありません。ただし「この作業、AIに任せられないか」を自分から提案できるかどうかで、1〜2年後の評価が大きく変わってきます。
年齢面で不安がある方は30代・未経験から経理になれる?年齢のリアルな限界と成功パターンも参考にしてください。年齢よりも「AIを前提にした働き方をどれだけ早く身につけられるか」のほうが、これからの経理転職では重要になってきます。転職エージェント選びに迷ったら経理向け:転職サイト・転職エージェント徹底比較もあわせてどうぞ。
2026年の経理転職市場は、「誰でも受かる」時代から「見極めた人が勝つ」時代に変わります。狙い目の業界とタイミングを押さえ、AIを使いこなす側に回る準備を、今日から少しずつ始めてみませんか。